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多分、その時の最上さんの気持ちは俺にはわからない。
推し量ることはできるけれど、所詮想像に過ぎない。
きっと、何か強く感じるものがあったのだろう。
結果は決して褒められたものではないけれど、どうしても、その気持ちを否定する気にはなれなかった。
「すみません。こんなことで、ご迷惑をおかけして」
「いいえ。私は何も」
「高橋さんには、本当に申し訳ないことをしました。それに、あの男性にも」
どきんと心臓の跳ねる音がした。
あの男性。
高橋さんに会った際に確認を取った。
彼は確かにあの加護将晴に間違いなかった。
「倉科さんは、あの人の情報はご存知で?」
「はい。警視庁の刑事さんです」
あの後、加護将晴について調べたところ、警視庁捜査一課に在籍していることが判明した。
てっきり機動隊の特練員をしているものだと思っていたから驚いた。
ただし、高橋さんの彼氏ではない。
言うべきか。
言わざるべきか。
「刑事さん」
最上さんが目を見開いた。
それから、「そうですか。飛び出す、はずですね。私には、できない」と静かに視線を落とした。
言わない。
言えない。
俺は曖昧に頷いた。
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