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「あの、お怪我の具合は」
骨折したという話を聞いていたので松葉杖でもついているかと思っていたが、包帯すらも見えないことに俺は驚いていた。
「もう大丈夫です」
そんなはずはないのだが、本人が大丈夫だというものをこれ以上突っ込んでも仕方がない。
俺は納得した振りをして、「よく来るんですか、ここ」と話題を変えた。
「たまに」
「飲まないのは、お仕事を気にして?」
急な呼び出しに備えてお酒を飲まないという話を聞いたことがあったが、「別に強制じゃないです」と短く答えた。
「すみません、突然お呼び立てして。知らないやつから電話がきて驚かれたでしょう」
「いえ、お気になさらず。それに、僕も加護さんにお会いしたいと思っていたんです」
「え?」
俺がそんなことを言い出すとは思っていなかったのであろう、加護将晴は目を丸くした。
「最上さんから、申し訳なかったと、加護さんに伝言を頼まれていたので」
それは俺の心情的には主要な理由でなかったが、立場上最初にこれを言わないわけにはいくまい。
加護将晴は納得したように「ああ」と声を漏らす。
「あの人、俺のこと高橋さんの恋人か何かと勘違いしたんでしょう。ストーカーのこと、知っていたのに軽率でした」
まるで事件の原因が自分にあるかのような言い方をする。
俺の中の加護将晴に、自分に厳しいという項目が加わった。
と同時に、俺という一人称にどこか近親感が湧く。
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