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「加護さんは、夏目医師をご存じですか」
大きな病院だ。
一体医者が何人いるのかもわからない。
二、三日入院していただけのこの人が宗佑さんのことを知っている確率はそれほど高くないように思われたが、それでも、聞かずにはいられなかった。
加護将晴は再び驚いた表情を見せる。
宗佑さんの名前に聞き覚えがあることは明白だった。
「俺の処置をしてくれた先生です」
今度は俺が驚く番だった。
あの二人は、俺が思っていたよりもずっと近くにいたようだ。
「どうして、ここで夏目先生の名が?」
当然の疑問だ。
俺は二人が知り合いとして振舞っていたのかどうかが気にかかったが、この様子では、少なくともこの人の前ではそのような素振りを見せていなかったことになる。
「高橋さんの話に登場した初恋の人は、おそらく夏目医師です」
加護将晴の黒目が大きくなる。
根拠のない言葉だったが、不思議と確信に近いものを感じていた。
「何故」
何故、か。
その理由を説明するためには九年前の話をする必要があるだろう。
九年前、あの頃、塾へ行くたびに彼女を目で追っていた。
思えば、俺にとってもあれが初恋だったのかもしれない。
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