第八章

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「でも、わざとだとしたらどうしてそんなこと」 そうだ。 そんなことをして、何かメリットでもあるというのか。 最上さんに見せるため? いや、それのどこがメリットなんだ。 「加護さんに、危害を加えるため」 「え」 「いえ、すみません。なんとなく思っただけです」 最上さんは何故か矛先を高橋千佳に向けたが、加護さんに対して危害を加えようという発想の方が一般的ではないだろうか。 「いや、多分違います。それを言うなら、彼女が攻撃したかったのは、おそらく自分です」 「え」 自分? どういうことだ? 「事件の後、高橋さんが俺の病室に謝罪に来ました。心底申し訳なさそうに深々と頭を下げたのですが、彼女だって被害者なのにどうしてそんなに、と思ってしまいました。もちろん、きっかけが高橋さんにあったことには違いないですから、今回のことで自分を責めてということだって考えられるんですけど、俺はそこに作為があったからこそ彼女は謝っているのではないかと思ったんです」 作為。 俺が感じたのと同じだ。 あの時は、自分で何をそんな絵空事をと思ったが、ここへ来て思想が現実味を帯びてきた。
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