第八章

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「ならば、本来彼女は最上さんに自分を傷付けてほしかったということですか。最上さんが、おそらく怒りの矛先を自分に向けるであろうことを確信して」 「そんな気がします」 「なんのために?」 怪我をしたい人間なんているのだろうか。 「誰かに、裁かれたかったから」 加護将晴は小さく言葉を落とした。 俺は、一瞬その言葉を理解することができなかった。 裁かれたかった? 何を? 「どういう意味ですか」 「そのままの意味です。自分の罪を、誰か他人に、裁いてほしかった」 「罪とは、なんですか」 「わかりません」と加護将晴は小さく首を横に振った。 罪という言葉を口にしたことには何か根拠があるように思われた。 高橋さんとの会話の中に何かヒントがあったのだろうが、それを尋ねるのは踏み込みすぎだろうか。 「お話いただいて、ありがとうございます。先ほど夏目宗佑さんの名前を出しましたが、宗佑さんは俺の大学受験時の家庭教師でした」 結局、俺は高橋さんについてそれ以上追求することなく、宗佑さんと高橋さんの話を始めることにした。
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