第八章

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加護将晴と出会った翌日、俺は寺にいた。 伯母の一周忌のために訪れたのだが、俺は従兄弟、故人の息子にあたる男がそこにいることに安堵していた。 昨年癌でこの世を去った伯母だったが、式が終わるや否や仕事だと言って消えてしまったのを今でも覚えている。 式の最中そこに存在していたことで最低限の責務は果たしたとでも言いたげであることに、なんだか居心地の悪さが残った。 忙しい人であることは承知していたが、しかし親の葬式の日くらいは休めないものだろうか。 仕事に没頭する自分に酔っていると感じてしまうのは、出来すぎた従兄弟への嫉妬であったかもしれない。 焼香、法話を終え墓参りへと向かう。 幼い頃は母方の親戚とは疎遠であったためか、伯母についての記憶は少なかったが、温かな人だという漠然とした印象はあった。 あの温かさがもう少しだけでも従兄弟に受け継がれていればと思うのが余計な御世話だということはわかっていたが、俺はどうにもそいつが苦手で仕方がなかった。 優秀であったことは間違いないはずだが、同時に、それだけであるというのが俺の印象だ。 あの人がどうして警察官になったのか不思議でならない。 弱きを助け、なんて殊勝な考えの持ち主だとは到底思えなかったが、しかしそれほど功名心の強い人でもなかったはずだ。
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