第八章

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伯父の圧力に負けたという声もあるが、そんなに弱い人間とも思えない。 俺にとって、そいつは得体のしれない存在だった。 しかし、親が死ぬというのは一体どういう感覚なのだろうか。 そう遠くない将来俺にもそういう時期が訪れるのだということはわかっていたが、想像もできなかった。 墓前で手をあわせる伯父に目をやりながら、ふと、従兄弟の姿が見えないことに気が付いた。 あれ、さっきまでいたはずなのに。 その瞬間、どこからか夏目宗佑というワードがぱっと耳に入ってきた。 「え」 俺は思わずあたりを見回す。 発信源はすぐにわかった。 従兄弟が僧侶と何かを話しているようだったが、その雰囲気にただならぬものを感じた俺は思わずそちらに向かって駆け寄った。 「善人さんっ」 どうして、ここで宗佑さんの名前が出るのか。 そう尋ねようと思った俺は、従兄弟、羽生善人の名前を呼んだ――
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