第九章

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善人、という書き出しを見ただけで、内容を読まずにメールを閉じた。 その名前が視界に入るだけでいらいらする。 ゼンニンと書いてヨシト。 まったくもって俺に合わない。 何が善人だ。 善人に刑事が務まるか。 「理事官、こちらです」 「ああ」 理事官、ね。 またコロシ。 この国では、一年に千件以上もの殺人事件が起きている。 それが国際比較では少ないっていうんだから世も末だ。 捜査本部の扉が開かれる。 真っ直ぐに歩いて、用意された席に着く。 「警視庁捜査第一課理事官の羽生だ」 短く自己紹介をする。 部屋を見渡すまでもなく、歓迎されていないことがわかる。 なんでキャリ坊なんかに仕切られなきゃいけないのか。 そりゃあ、当然の不満だ。 史上初の捜査一課キャリア理事官。 お前みたいな若造に殺人事件の捜査ができるわけない。 こいつらみんなそう思ってるんだろ。 くだらない。
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