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善人、という書き出しを見ただけで、内容を読まずにメールを閉じた。
その名前が視界に入るだけでいらいらする。
ゼンニンと書いてヨシト。
まったくもって俺に合わない。
何が善人だ。
善人に刑事が務まるか。
「理事官、こちらです」
「ああ」
理事官、ね。
またコロシ。
この国では、一年に千件以上もの殺人事件が起きている。
それが国際比較では少ないっていうんだから世も末だ。
捜査本部の扉が開かれる。
真っ直ぐに歩いて、用意された席に着く。
「警視庁捜査第一課理事官の羽生だ」
短く自己紹介をする。
部屋を見渡すまでもなく、歓迎されていないことがわかる。
なんでキャリ坊なんかに仕切られなきゃいけないのか。
そりゃあ、当然の不満だ。
史上初の捜査一課キャリア理事官。
お前みたいな若造に殺人事件の捜査ができるわけない。
こいつらみんなそう思ってるんだろ。
くだらない。
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