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十年前にもこの場にいた。
あの時は捜査員としてだったが、ここの雰囲気は相変わらずだな。
睨むなよ。
お前ら、俺の実力がわからないわけじゃないだろう?
捜査本部立ち上げ後の最初の会議が終わるや否や、会議室を出ようとした俺の背後から声がかけられた。
「羽生さんっ」
場に不釣り合いな明るい声だった。
振り返った先にいたのは、年齢こそ俺とそれほど変わらないだろうが、しかし幼い顔立ちをした男だった。
幼いというのは、童顔という意味ではない。
考え方のあまさ、未熟さが顔に出ているのだ。
それでどうやって刑事としての月日を経てきたのか疑問に思わずにはいられない。
「増本……」
そいつ、増本啓吾は俺の口から即座に自分の名前が出たことがよほど嬉しかったのか、ぱぁっと満面の笑みを見せる。
見れば見るほど、刑事には似合わない男だ。
九年前にも同じことを思った。
所轄とはいえ、まだ刑事を続けていたのか。
「ありがとうございます。覚えていていただけるとは、身に余る光栄です」
馬鹿を言うな。
忘れるわけがない。
あんな釈然としない事件、忘れるものか。
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