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事件の犯人とされる夏目邦浩の息子、夏目宗佑。
その顔は、九年経った今でもはっきりと思い出すことができる。
あの男には何かがある。
わかっていた。
それなのに。
何もわからないまま終わらせてしまった。
あの事件を、忘れることなどできるはずがない。
「僕、あの翌年に宗佑君に会ったんですよ」
なっ。
「彼、理三に合格してたんです。すごいですよね、あんなことがあったのに」
「どこで」
「え」
「どこでっ」
我ながら冷静さを欠いていると思うほどに声を荒げた。
無論、この九年間常にあの事件のことを考えながら過ごしてきたというわけではない。
にも関わらず、その名前を聞いた瞬間頭の中がそれで占められるのを感じた。
「あ、えと」
俺の勢いに気圧されている増本の後ろから「夏目宗佑の話?」と涼しい声が聞こえた。
視線をやると、俺や増本とそう年の変わらない細身の男が立っていた。
先ほどの捜査会議で、見た覚えがある。
座っていた場所から考えて、捜査一課の人間だろう。
周囲の人間に比べて若いことに加えて、雰囲気の棘のなさが目立っていた。
棘がないと言っても、増本のような能天気さとはまったく違う。
洗練されているという言葉が一番近いような気がした。
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