第九章

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「へえ、すごいなあ宗佑君」なんて感想を漏らしている増本は、本当に幸せな野郎だ。 「病院というのは?」 久高は夏目の勤務する病院の名前を挙げた。 聞いたことがある。 それなりに大きな病院のはずだ。 六年間大学に通ってから研修医として働いていたことを考えるとまだ新人の部類だろうが、調べずとも活躍していることがわかる。 知力が高いというだけではない。 あの男には、覚悟がある。 おそらくは他人を救うために身を粉にして働くことを厭わない人間だ。 医者は、向いているかもな。 「それで、病院で見て、帰ってから気付いたのか」 増本の問いに、「いや、ほんと言うと、先に引っかかったのは友達の方の名前で」と久高は返した。 「友達?」 「三池航平って覚えてるか?あの時死んだ一と夏目の友達」 「ああ」と言いながらも、増本の表情は微妙だ。 おそらく記憶にあるのは存在までで、顔や名前は覚えていないのだろう。 「その三池が、さっき言った後輩の知り合いで見舞いに来てて病室で会ったんだ。で、後で名前聞いて思い出した。夏目に比べるとちょっと珍しいからね」 もう少し話を聞きたかったのだが、「理事官」と俺を呼ぶ声に引かれる。 「その後輩ってのの名前は?」 これだけは聞いておかなくてはと思い、早口で質問した。 「十一係の加護です」 短く礼を言ってその場を後にする。 加護。 八年前に剣道で名を馳せ、この春一課に配属されたその男は、有名人だった。 週末に入院したという話は聞いていたが、そうか、夏目と繋がるのか。 折を見て加護にも話を聞こうと思いながら、目の前の事件へと意識を戻した。
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