第九章

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先日久々に名前を聞いたためか、読経の最中だというのに夏目宗佑の名前が頭から離れない。 結局何も解決できないまま終わらせてしまった。 正直言って俺は宗佑が正当防衛に見せかけて父親を殺害したのではないかと疑っていた。 宗佑と千佳による計画的な親殺しというのが俺の中での最有力説だが、何故かと問われると勘と答えざるを得ないほどにひとつの証拠もない。 強いて言えば気にかかるのはあの悪趣味な置物だが、しかしそれも宗佑と千佳の共犯説を強調するようなものではない。 それにこの説の最大の難点は、そんなことをして一体何のメリットがあるのかということだ。 千佳にとってみれば別に犯人を用意することができるのだからプラスと言えないこともないが、しかし事件現場が自宅というのはあまりに危ない橋を渡りすぎているように思う。 完全犯罪を計画する上で重要なのは、いかに事件にしないかということに尽きる。 死体が見つからないのが最良なのだ。 漫画や小説に出てくるような派手なアリバイトリックなど論外である。 あの二人がその程度のことに考えが及ばないとは思えない。 次に考えられる説としては、千佳が衝動的に犯してしまった父親殺しの隠蔽に宗佑が協力したというものだが、この場合問題なのが、宗佑は本当に邦浩を殺す必要があったのかということだ。
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