第九章

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そうだ。 やはり何度考えてもそこに帰着する。 動機や計画性などの細部を置いておいたとしても、宗佑がこのような形で邦浩を殺すことによるメリットがほとんどないのだ。 いくら実刑を免れたと言っても、宗佑が父親を殺害したという事実は周囲に広く知れ渡ってしまった。 学校にはもともと居場所がなかったから関係ない? どうせ大学に進学するから問題ない? そんなものなのか。 そこまでして、邦浩のことを殺したかったのか。 もちろんどこまで演技なのかはわからないが、それほど父親を憎んでいたとは思えなかったが。 いや、そもそもいくら憎んでいたとしても、殺人なんてその解決策としては最低レベルの行為だ。 道徳的な話だけではない。 実利だけを考えても、あまりにリスクが高すぎて割りに合わない愚行だ。 それがわからない二人ではないと思うのだが。 「善人、墓参りだ。早く来い」 「はい」 父さんにああ言っておきながら、俺は心ここに在らずのまま一周忌の行程が進行していた。 母さんの墓。 この一年間で、一度も来たことはない。 不義理とは思ったが、改めようとは思わなかった。 俺は俺だ。
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