75人が本棚に入れています
本棚に追加
墓地を歩く中、俺はある墓石の前で足を止めた。
そこに大輪のひまわりの花が供えてあったからだ。
墓参りにひまわり?
棘のある薔薇などとは違って、忌避すべき花とは言われていないが、それでも墓で見るには珍しい花だ。
それも、こんな立派な。
故人の好みだろうか、と少し気にかかった。
そうして、何の気なしにその墓石に刻まれた名前に目をやり、俺は言葉を失った。
夏目家之墓。
その墓石には、確かにそう書かれていた。
そうだ。
事件が起こったのは、ちょうど九年前の今日だった。
では、このひまわりは邦浩への供花?
「あの、この墓」
俺は前方を歩く叔母達を無視して、掃除をしていた若い僧侶に声をかけた。
「ああ、そこは住職のご友人のお墓です。でも、そのひまわりは息子さんのお嫁さんへのものかな」
住職の友人?
息子の嫁?
予想に反した返答に俺は戸惑った。
「あの、その住職のご友人と、息子さんのお嫁さんというのはいつ亡くなられたんですか」
「どちらも、もう二十年以上前のことのはずですが、すみません、あまり正確な数字は……」
二十年以上前……。
最初のコメントを投稿しよう!