第九章

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墓地を歩く中、俺はある墓石の前で足を止めた。 そこに大輪のひまわりの花が供えてあったからだ。 墓参りにひまわり? 棘のある薔薇などとは違って、忌避すべき花とは言われていないが、それでも墓で見るには珍しい花だ。 それも、こんな立派な。 故人の好みだろうか、と少し気にかかった。 そうして、何の気なしにその墓石に刻まれた名前に目をやり、俺は言葉を失った。 夏目家之墓。 その墓石には、確かにそう書かれていた。 そうだ。 事件が起こったのは、ちょうど九年前の今日だった。 では、このひまわりは邦浩への供花? 「あの、この墓」 俺は前方を歩く叔母達を無視して、掃除をしていた若い僧侶に声をかけた。 「ああ、そこは住職のご友人のお墓です。でも、そのひまわりは息子さんのお嫁さんへのものかな」 住職の友人? 息子の嫁? 予想に反した返答に俺は戸惑った。 「あの、その住職のご友人と、息子さんのお嫁さんというのはいつ亡くなられたんですか」 「どちらも、もう二十年以上前のことのはずですが、すみません、あまり正確な数字は……」 二十年以上前……。
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