第九章

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「何だよ」 苛立ちが声に出る。 別にこいつにどう思われようが知ったことではない。 「今、夏目宗佑って言いましたか」 なっ。 「知ってるのか」 俺の問いに対し、そいつは「はい」と短く答えた。 「何で?どこで?」 高圧的な物言いが気に障ったのか、晃多はムッとした表情を見せる。 「善人さんこそ、どうして宗佑さんのことを知ってるんですか」 わざとらしい敬語が鼻に付く。 何だこいつ。 「俺が聞いてんだよ。さっさと答えろ」 晃多は不快感を隠そうともしないまま、「俺の家庭教師だよ」と短く答えた。 家庭教師? なるほどね。 「他には?」 「は?」 「他にも何か知ってることあるだろ」 カマをかけたつもりだったが、表情を見る限りではどうやら当たりのようだ。 晃多は苦い表情をして黙った。 顔に出すぎ。 これだからガキは。 「おい、何で宗佑さんのこと知ってるのか聞いてないぞ」 苦し紛れに出た言葉がそれだった。 温室育ちのお坊ちゃんが無理して虚勢を張っているのがありありとわかる。 雑な言葉遣いが似合わないのもここまでくると貴重だな。
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