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「夏目について知りたいんだろ?だったらお前の知ってること全部話せ。話はそれからだ」
「はあ?ふざけんな」
晃多がぎこちない暴言を吐いたところで、「何してるの晃多っ」と叔母さんの叱責が飛ぶ。
続いて「善人」と父さんが俺の名前を呼ぶものだから、まだ聞きたいことがあったのだが、やむなく若い僧侶と副住職に礼を言って母さんの墓参りへと体を戻す。
しかし、頭の中では夏目に関する情報が渦巻いていた俺は、一周忌の行程が終わるや否や今度は寺の住職に声をかけた。
「ああ、さっきの」
俺のことは覚えていたようで、住職は心得た様子で俺を迎えた。
「どうぞこちらへ」
寺の中へと通される。
畳の上で正座をするのはいつ以来だろうか。
「羽生善人です。本日はありがとうございました。途中、ご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした」
「いえ。それで?私に聞きたいことというのは」
「住職は、夏目邦浩をご存じで?」
「ああ」と懐かしそうに目を細める。
父さんの同級生ということは六十代半ばのはずだが、十くらいは年齢が上なように思える。
しかし、それは死というものに間近で向き合ってきたものの醸し出せる人間味の深さであり、むしろこの人の長所のように思えてならなかった。
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