第九章

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「はい、小さい頃からよく知っていますよ」 「邦浩がすでに死んでいることはご存知ですか」 「え」 住職は目を丸くした。 やはり夏目邦浩の訃報は十年近くの間ここへは届いていなかったようである。 「九年前に亡くなりました。息子の、宗佑による刺殺です。と言っても、正当防衛ということになっていますが」 あえて含みのある言い方をした。 「そんな。宗佑が……」 住職が苦い表情を見せる。 その言い方から、とりあえず宗佑の存在については知っているようだと推量した。 「邦浩がここにいたのはいつことですか。その経緯は?」 逸る気持ちが、言葉を早口にさせる。 しかし、住職はそれを気にした様子もなく、「それは」と俺の半分くらいのスピードで言葉を落とした。 「邦浩の父が、私の友人でね。夏目宗一郎というんだが」 宗一郎という名前を聞いた瞬間、初めて宗佑という名を聞いたときに、案外まともな名前をつけるんだなと思ったことを思い出した。 最近ではドキュンネームやキラキラネームと呼ばれるような名前も増えてきたが、当時からそのような名前が少なからず存在していたことはよく知っている。 子供の命名には親の人間性がよく表れると考えている俺にとっては、何だか意外な思いであったことをよく覚えている。
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