第九章

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「そうだね。ちょうど、二十歳のときだったかな」 邦浩と同じ人種かいう呆れが顔に出たのか、住職は「ただね」と付け加える。 「ひとつ言っておきたいのは、夏目宗一郎は大変素晴らしい人物だったということだ」 「え」 「勉強はよくできたし、それに限らず本当の意味で優秀な男だったと思うよ。顔立ちも十分に整っていたから、女性にもよく好かれた」 頭の中で社交的な夏目宗佑の姿が再生された。 おそらく完璧と言って差し支えないだろう。 そうか、突然変異だったわけではなかったか。 「職業は?」 「医者だった」 医者。 ここでもまた、夏目とつながる。 「人を救うことに人生を懸けているような男だったが、その分、家族に向けられた愛情は他人よりも少ないものだったのかもしれない」 「それで、邦浩があんな風に」 住職は穏やかな表情で「君が邦浩のどういう情報を持っているのか想像は付くけどね」とことわった後に、「あの子も、優秀な子だったよ」と続けたものだから、驚かされた。 「小学生の頃は、随分と勉強がよくできたんだ。ただ中学校が肌に合わなかったのかな。もともと少しひねくれたところがある子だったのが、どんどん歪んでいってしまった」 邦浩に関してクズのような印象しか持っていなかった俺は、その話を聞きながらただただ驚くばかりだった。
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