第九章

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「それで、両親が亡くなって」 「そう、それが決定的だった。あの子は他人に対して心を閉ざしてしまった」 「どうして、住職が引き取るという話になったんですか。それほど、仲が良かったのでしょうか」 「大学が離れてしまったからね、正直いって随分と疎遠になっていたんだ当時。最後に会ったのは、あいつが死ぬ一年以上も前だった」 どうして一年以上も会っていない友人の子供を引き取ろうなんて思うのか。 俺には理解できない。 「あの子を引き取ろうと思ったのは、ほとんど直感のようなものだった。通夜の席で親戚中があの子を押し付け合っているのを見て、ああ、このままではこの子の心が死んでしまうと思ったんだ」 「それで、ご自分が?」 「うん」 記録が残っていないことからして法的な手続きはほとんど取られていなかったことがわかる。 まともそうなフリをして随分短絡的な行動をとったものだと言わざるを得ないが、それでも俺にその行動を非難する権利はない。 「その後は?高校へは行かなかったんですか」 「邦浩がここにいたのは二年と少しだ。もちろん高校へは入れてやろうと思っていたんだけどね、あの子は入学試験を受けに行かなかった」 善意で引き取ったはいいが結局失敗したということだろうか。 俺の考えを読み取ったのか、「君が考えている通りだと思う」と物思いに耽るように視線を落とした。
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