第九章

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「そう感じるのが一般的だと思いますが」 「私もそう思う。でも、人間というのはそう簡単に割り切れるものでもないでしょう」 その言葉を深いと取るべきか、それともご都合主義の戯言と取るべきか。 「住職は邦浩の話に納得したんですか」 「納得するしないという話ではない。死者を供養したいというなら手を貸すのが私の仕事だ」 まあ、この人の立場ではそういうしかないか。 そんなことしか思えない自分が非情だとは思わなかった。 「それで?」 「もう一度、一緒にやり直さないかと言ったけれど、聞いてはもらえなかった」 その後、邦浩との関わりがなかったことは、その表情を見ればよくわかった。 「邦浩と最後に会ったのは?」 「直接会ったのは、その時が最後だ」 直接会ったのは、か。 それからあの事件が起こるまでおよそ十五年間。 だれか邦浩を救ってやることはできなかったのかと思わなくもないが、それをこの人に求めたら酷だろう。 「あの、邦浩は九年前に?」 住職は遠慮がちに、邦浩の死について尋ねた。
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