第九章

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「俺のことは知ってるか」 「はい」 「どうして自分が呼ばれたのかわからない?」 これに対しても同意の返答が返ってくるものと思っていたが、予想外にも「夏目宗佑についての情報を集めておられると聞きましたが」と言った。 「久高か?」 当然増本ではないだろう。 「はい。今日の昼に会った時に軽く」 なるほど。 久高幹久。 先日顔を合わせた後に調べたが、かなり優秀な男のようだ。 他人よりも随分多くのものが見えているのだろうということは、少し話しただけでもよくわかった。 優秀な人間は、優秀な人間を好む。 その瞳に誠実さが表れる加護を見ながら、随分久高に可愛がられているのだろうと想像した。 「担当医だったと聞いたが、夏目宗佑という男をどう見た?」 抽象的な質問であることはわかっていたが、この男ならそれでもよいと思った。 「その質問に答える前に伺いたいのですが、高橋千佳という女性を知っていますか」 まさか加護の口からその名前が出てくると思っていなかった俺は、目を丸くした。 「知っているようですね」 加護が冷静に言った。 どうやら俺も晃多のことは言えないようだ。
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