第九章

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ことの大きさが予想以上のものだったのか、途中加護は何度か目を丸くしたが、何も口を挟むことなく最後まで黙って話を聞いた。 今日の住職との話までを終えて「俺からの話は以上だ」と締める。 「どう思う?」 この事件についての俺の考えを人に話したのはこれが初めてだ。 今となっては自分が荒唐無稽なことを言っているとは思っていないが、それでも感想を求めずにはいられなかった。 「それを真実だと思っている理事官の口から聞いた情報が大半なので、自分には判断し兼ねます」 賛同してもらえると思っていたわけではないが、その返答はわずかに俺を落胆させた。 と同時に、目の前に座る若者に対し、信頼に値する人間であるという確信を得た。 「ですが」と再び口を開いた加護は、「その可能性は十分にあると思います」と続ける。 「俺の彼女が看護師をしていて、夏目と一緒に働いているんです。働きすぎだと言っていました。一ヶ月以上、家にも帰ってないって」 大金が送られてくるという話からある程度予想できていたことではあるが、実際に聞くことで改めてその事実の重みが増したような気がする。 「それに、高橋さんは多分、夏目以上に後悔しています」 「え?」 「自分の話を、聞きに来られたんですよね。話します。知っていること、全部」 加護がゆっくりと話を始める。 加護の怪我が高橋千佳絡みだったことには当然驚いたが、最大の衝撃は、夏目と高橋千佳が高校時代に知り合っていたということだ。 やはり、そうなのだ。 あの事件には、明らかにされなかった真実がある。
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