第九章

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「待った、その弁護士って二人のことを見たってだけで知り合いじゃないんだよな。どこで夏目の名前を知ったんだ?」 「あ、すみません。何でも大学受験のときに夏目に家庭教師をしてもらっていたらしく」 「え」 それって。 「倉科晃多?」 「え、知ってるんですか」 「ああ」 まだ何か知っているとは思っていたが、あいつが想像以上の情報を持っていたことにただ驚いていた。 そうか、悠長なことを言っていないで、もう少し問い詰めるべきだった。 「あの」 黙って晃多のことを考えていた俺に、加護が遠慮がちに話しかける。 「ん?」 「先ほど、夏目にとって何もメリットがないと仰っていましたけど」 その表情からは、加護が何か一定の考えを持っていることが察せられる。 「わかるのか?」 「わかるっていうか……」と言葉を濁した加護は、少し考えるように間を取ってから、「失礼ですが」と前置きをして、「理事官は、人を好きになったことはありますか」と本当に失礼なことを口にした。
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