第九章

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先日久高について調べたときに、同様に加護の情報についてもいくつか見ていた。 現在の交際相手と結婚を予定しているという旨の記載があったことを思い出す。 警察官は結婚はもとより交際相手についても職場へ報告することが義務付けられていた。 「お前は、もし、彼女が人を殺したらどうする?」 俺の質問に対し、加護は「わかりません」と答えた。 人として、警察官として、間違った答えだ。 けれど、おそらくそれが、俺には決して辿り着くことのできない真実だ。 「俺には、理解できそうもない」 加護は何も答えなかった。 「なあ、ひとつ、聞いていいか」 「はい、何でしょう」 「愛とか恋とか、そんなにいいもんか」 馬鹿げていると感じる俺がおかしいのだろうか。 初めて、自分の価値観を疑った。 「理事官に必要かどうかは自分にはわかりません。でも、少なくとも、彼女は自分の人生に必要な存在です」 これまで、知り合いが結婚や出産をしていても何も感じなかった。 にも関わらず、まっすぐにそう言い切った加護を見ていると、何か自分がとんでもなく人間として欠落しているものがあるように思えてきた。 「引き止めて悪かった。ありがとう」 俺は礼を言って椅子から腰を浮かせた。 「あの」と加護が言葉を発する。 「二人を、救ってやってください」 「ああ」 すべてを、明らかにしよう――
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