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「えー、何、邦ちゃんの子供?」
「まさか。近所のガキだって。たまに勝手に入ってくんだよ、こいつ。ほら家帰れって」
僕の背中を押した父は、大きな音を立てて、その扉を閉じた。
これで、三日連続。
あの人に、随分入れあげてるみたいだ。
今度は、一体何日保つだろうか。
十分と少し歩いて公園に辿り着く。
滑り台に腰掛けて天を仰ぐと、そこには綺麗な星空が広がっていた。
今日はいい日だな。
この頃、一番好きだったものは数学で、一番嫌いだったものは雨だった。
雨に濡れることにはすぐに慣れたけれど、父によってつけられた傷に雨水が染みることに慣れるまでには、随分と時間を要した。
時間を潰すための家でないどこかを探していた僕が、公園の次に見つけたのは図書館だった。
家から歩いて一時間近くかかるそこは、遅くまで僕に居場所を与えてくれた。
まだ小学生にもならない僕が閉館まで本を読んでいることを訝しんだ人々が何度か話しかけてきてくれたが、僕はいつも大丈夫ですと言って笑った。
そうすることしか、僕には選択肢がなかった。
その子を初めて見たのは、小学三年生の夏だった。
閉館十分前のメロディーに反応して顔を上げると、隅っこのテーブルに、自分とそう年の変わらない少女が座っていることに気付いた。
このくらいの時間に図書館にいるのは、受験勉強をしている高校生か行くあてのないホームレスが多い。
僕が言えたことではないが、彼女はその場にはそぐわなかった。
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