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「え?」
それほど深い意図のない発言だったが、高橋さんが思いの外大きな声を上げるものだから何か変なことを口走ってしまったのではないかと慌てた。
「すみません。僕、何か、変なこと」
「や、そうじゃなくて」と言った彼女は、「名前」と続けた。
「え?」
「私のこと、知ってるの?」
「ああ」
一瞬しまったと思ったが、今さら取り繕っても仕方がないと思った僕は、開き直って「高橋、千佳さんでしょう?」と答えた。
「知ってますよ。いつも、掲示されていますから」
たったそれだけの言葉を口にするのに、心臓が驚くほど高く鳴った。
自分が自然に笑えているかどうか、不安でならなかった。
「私も知ってるよ。夏目君、いつも一番だよね」という高橋さんの返答が、さらに僕の心拍数を上げる。
「たまたまですよ」
落ち着けと、心の中で必死に念じた。
「でも、この間の模試もダントツだったよね」
彼女が自分のことを知ってくれているという事実が、ただ嬉しかった。
たいしたことではないとわかっている。
それでも、今ひととき、それを幸せに感じることを許して欲しかった。
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