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「でも、英語の一位はまた渡辺君に取られちゃいました。柳瀬君の物理にも、まだ勝ったことないですし」
成績について、得意になるつもりはなかった。
試験で点が取れるということにそれほど大きな意味がないことなど、よく知っている。
どれだけ知識を得ても、一番になっても、それを喜んでくれる人も、認めてくれる人もいなければ、意味などないのだ。
人は一人でも生きていけるけれど、そこに幸福は存在し得ない。
「それに、高橋さんとは、今年の春に一度ぶつかってしまいましたし」
僕にとっては大事件だった。
半年以上も前なのに、つい昨日のことにように覚えていた。
「え」
「あ、覚えてないですよね。僕が本をたくさん抱えていて」
「覚えてるっ」と彼女が即座に返したことが、さらに僕に喜びを与えた。
「あ、よかった」と答えながら、自然に口元が緩んだ。
以前、最後に笑ったのがいつのことだったのかは、もう思い出すこともできなかった。
「あ、じゃあ私これで」
「あ、はい」
たったそれだけのことが、それまでの十七年間で一番幸せな出来事だと言ったら、僕はあまりにも詰まらない人間だろうか。
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