第十章

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「そろそろ時間なので、キリのいいところで片付けお願いしまぁす」 特徴のある声が自習室に響いた。 見回りをしている大学生を見ながら、前髪が目にかかって邪魔だろうにと思わずにはいられない。 おそらくあえてやっているのだろうが、そのセンスは僕にはわからなかった。 素早く片付けて教室を出る。 参考書を手に階段を降りて書籍ルームへ向かう途中、ざぁざぁと雨の降る音が聞こえた。 退出する間際にちらりと高橋さんに視線をやったが、確認できた限りでは傘を持っていないように見えたことが気にかかる。 ちゃんと折り畳み傘を持っているだろうかと考えながら、あまりにもストーカー染みた自分の思考に嫌悪感を抱く。 気持ちが悪い。 頭ではわかっているのに、どうすることもできなかった。 書籍の貸し出し台帳に必要項目を記入して階段の方へ戻ると、ちょうど高橋さんが上から降りてきたところだった。 「あ、高橋さん。お疲れ様」 努めて平静を保ちながら笑った。 「お、お疲れさま」と高橋さんが言葉を返す。
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