第十章

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夢みたいだった。 あの日、雨が降っていてよかったと思った。 彼女と話している間だけ、僕はそれまでの自分を忘れることができた。 彼女といるときの僕は、僕であって僕ではなかった。 嘘を吐いていることに対する罪悪感はあったが、それよりも彼女と話していたいという欲望が勝っていた。 「結構しゃべった?」 「いや、全然。夏目のクラス教えたんだけど、多分何もしてないって言ったら即行帰っちゃって」 「何それ?あいつが主役でもやってると思ってたわけ?」 「主役ってことはないだろうけど、何か夏目が学校であんな感じで知らないっぽかったな」 「え、どういうこと?あいつどっかではキャラ違うってこと?それマジウケるんだけど」 「さあ。でもまあ、普通にしてたらモテそうだよな」 「いや、普通にできないからダメなんだろ」 「それな」 ひとしきり笑った後、そいつらはまた話題を移して楽しそうに話を続けた。 僕の頭の中では、高橋さんの笑顔がちらついていた。
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