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夢みたいだった。
あの日、雨が降っていてよかったと思った。
彼女と話している間だけ、僕はそれまでの自分を忘れることができた。
彼女といるときの僕は、僕であって僕ではなかった。
嘘を吐いていることに対する罪悪感はあったが、それよりも彼女と話していたいという欲望が勝っていた。
「結構しゃべった?」
「いや、全然。夏目のクラス教えたんだけど、多分何もしてないって言ったら即行帰っちゃって」
「何それ?あいつが主役でもやってると思ってたわけ?」
「主役ってことはないだろうけど、何か夏目が学校であんな感じで知らないっぽかったな」
「え、どういうこと?あいつどっかではキャラ違うってこと?それマジウケるんだけど」
「さあ。でもまあ、普通にしてたらモテそうだよな」
「いや、普通にできないからダメなんだろ」
「それな」
ひとしきり笑った後、そいつらはまた話題を移して楽しそうに話を続けた。
僕の頭の中では、高橋さんの笑顔がちらついていた。
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