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次の木曜日、僕は自ら高橋さんに文化祭の話を切り出した。
「ごめん」という言葉は、この五ヶ月間身の程知らずにも自惚れていた自分への自戒の念を込めたものだった。
どんな時間もいつか終わりが来る。
そんなことはわかっていた。
幸福な時間だけが永遠に続くなんて、そんなものは幻想だ。
次の木曜日も、その次の木曜日も、高橋さんは僕よりも先に自習室を出た。
もう二度と、彼女と話すこともないだろう。
そう思っていた。
三度目の木曜日、その日は何だか朝から視界がぼやけていた。
原因が前日の雨であろうことは、何となく察しがついた。
結局ずぶ濡れのまま外で一晩過ごし、風呂にも入っていない。
学校では、何か自分がとんでもない異臭を放っているのではないかと気が気でなかった。
それでも塾へ来たのは、無論他に行く場所がないということもあるが、未練がましい僕にとって、たとえ会話を交わすことができずとも木曜日は変わらない宝物だった。
彼女を一目見るだけで、力をもらえた。
「そろそろ時間なので、キリのいい所で片付けおねがいしまぁす」
いつもと変わらない大学生スタッフの声に押されて、僕は自習室を後にした。
高橋さんがまだ残っていたが、気にはならなかった。
一階まで降りて、塾の扉を押す。
「待って」という声に反応するとほぼ同時に、左手が掴まれた。
振り返ると、そこには血相を変えた高橋さんの姿があった。
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