75人が本棚に入れています
本棚に追加
「高橋さん、戻ってきちゃったの?」
「夏目君」
僕の肩に優しく手をかけた彼女は、「うちに行て、お願い」と続けた。
「高橋さんの親御さんになんて説明するの。僕なら大丈夫だから」
これは高橋さんの優しさで、同時に同情だ。
あまえちゃ、いけない。
「いないから。お父さんもお母さんも。だから」
高橋さんがあまりにも必死にそんな言葉を発するものだから、僕は言葉を失った。
「高橋さん」
断ろうと思うのに、言葉を続けることができずに一瞬意識が飛んだ。
不覚にも、僕の体重が彼女にかかる。
「夏目君っ」
「ごめっ……ほん、と……だいじょ、ぶ、だから」
「タクシー拾おう」
車道へ出ようとする高橋さんの手を掴んだ。
「高橋、さん……」
やめてという言葉が続かない。
限界だった。
「大丈夫」という彼女の優しい言葉を最後に、僕は意識を失った――
最初のコメントを投稿しよう!