75人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、ちょっとこっち来い」
「はい」
ちゃぶ台の前で酒をあおる父の元へ行くと、手に持っていたコップの中のビールをバシャッと僕にかけた。
「お前のその澄ましたようなツラがムカつくんだよ」
僕の腕を掴んで引きずり倒す。
そのまま倒れ込んだ僕のお腹に蹴りを入れた父は、馬乗りになって僕の首に手をかけて締めた。
「お前さあ、ほんと毎日何が楽しくて生きてんの?誰にも必要とされてないんだから俺以下だろ。さっさと死ねよ」
わかっている。
父がこのようなことを言いながらも僕を手元に置いておくのは、僕を蔑むことによって自分の価値を確認したいからだ。
臆病な父のための精神安定剤、それが僕だった。
父は僕を殺さない。
この人に、そんな勇気はない。
朦朧とする意識の中で僕は必死に自分にそう言い聞かせた。
「あー、くそっ」
何かに苛立った父は僕の首から手を離してさらに酒をあおった。
咳き込む僕に対して、「おい、早く飯っ」という言葉が飛ぶ。
「はい」と答える言葉が濁った。
最初のコメントを投稿しよう!