第十章

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その日を迎えるたびに、僕は父という人間の中に残る人間味を感じて、安心を得ていた。 父が未だに母に固執しているという事実が、僕の恋愛というものに対する憧れのようなものを守ってくれているからかもしれない。 父に食事を提供しながら、今年の命日も父が母の墓参りに行くならば、高橋さんにもう少し歩み寄ってみようと思った。 結局、自堕落な父に勇気をもらわなければ前に進めないほどには、僕も臆病な人間だったのだ。 母の命日の前日に、父が明日は大切な用事があると言っているのを耳にした。 それが墓参りだと確信した僕は、翌日の木曜日に塾に行く前に携帯電話を購入しようと心に決めた。 そして、高橋さんに連絡先を聞くのだ。 高橋さんに引かれてしまうのではないかという不安に対し、大丈夫と自分に念じた。 そうしないでは、平静を保っていられなかった。 そうして僕らは、最後の木曜日を迎えた。
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