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「夏目、こっち」
「はい」
「夏目先生、お願いしますっ」
「はい、今行きますっ」
九年の月日を経て、僕は医者となっていた。
救命救急医になることは、九年前のあの日から心に決めていた。
須藤さんは僕を働きすぎだと言うけれど、僕に他の選択肢はなかった。
何かに必死になっていないと、あの時の記憶がつい昨日のことのように蘇る。
こうすることでしか、僕は生きることを許されない。
その言葉は嘘だ。
わかっていた。
どれだけの命を救おうが、僕は決して許されない。
そんなことは、わかっていたのだ。
それでも、こうすることでしか、一人でも多くの人を救い続けることでしか、生きられなかった。
寝ないことも休まないことも、僕にとっては何一つ苦ではない。
そうしていれば、余計なことは何も考えないでいられる。
僕に何か苦があるとすれば、それは彼女を失うことの他にはなかった。
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