第十章

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「夏目、こっち」 「はい」 「夏目先生、お願いしますっ」 「はい、今行きますっ」 九年の月日を経て、僕は医者となっていた。 救命救急医になることは、九年前のあの日から心に決めていた。 須藤さんは僕を働きすぎだと言うけれど、僕に他の選択肢はなかった。 何かに必死になっていないと、あの時の記憶がつい昨日のことのように蘇る。 こうすることでしか、僕は生きることを許されない。 その言葉は嘘だ。 わかっていた。 どれだけの命を救おうが、僕は決して許されない。 そんなことは、わかっていたのだ。 それでも、こうすることでしか、一人でも多くの人を救い続けることでしか、生きられなかった。 寝ないことも休まないことも、僕にとっては何一つ苦ではない。 そうしていれば、余計なことは何も考えないでいられる。 僕に何か苦があるとすれば、それは彼女を失うことの他にはなかった。
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