第十章

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わかっている。 今の状況を失っていないと捉えるのは、僕のエゴだ。 彼女を守ったなどとは口が裂けても言えない。 それどころか、僕の行為はもしかしたら、いや確実に、彼女の痛みを増しただけだったのかもしれない。 それでも僕は、心の中で唱える。 高橋さんは幸せだ。 きっと幸せになっている。 そう信じることでしか、僕は生きていけない。 僕は自分が彼女に会わないのではなく会えないのだということをわかっていた。 もちろん、僕が彼女に会いに行くのはルール違反だ。 しかし、僕がその約束を破らないのは、ただ怖いからだ。 幸せになっていない彼女を目の当たりにすることが怖かった。 「夏目」 「はい」 頭の中のごちゃごちゃを全て追い出して、目の前の患者に集中する。 それが僕の選んだ生き方だった。
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