第十章

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「お疲れ様です、夏目先生」 内海先生が缶コーヒーを飲みながらスタッフルームへ現れた。 どうやら珍しく静かな夜のようだ。 「お疲れ様。さっきの患者さん、特に問題なし?」 「はい」と短く答えた内海先生は、それについてこれ以上のことを話す気は無さそうだ。 「昨日お子さん大丈夫だった?」 年下のはずなのにすでに結婚して子供までいるというのだから驚きだ。 「はい、おかげさまで。いつもありがとうございます」 「いえ。今日は、旦那さん?それとも」 「旦那です」 内海先生はそれ以上の追及を拒絶するかのようににこりと笑った。 どうやらしばしば子供の面倒を見てくれる友人がいるようだが、あまり触れない方がいいのだろうか。 子供好きの明るい女性を思い浮かべてから、内海先生とはウマが合わなそうだと勝手なことを思った。 「夏目先生は当直室で寝ないんですか」 「寝るよ。でも、その前に夕飯」 「おにぎり?」 僕の手元を見た内海先生は、信じられないと言ったような表情を見せる。 一般に失礼と見えるような言動でも、彼女がすると不快感を与えないから不思議だ。
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