第十章

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「おにぎり、美味しいよ。昆布、オススメ」 「いや、夕食にコンビニおにぎりはなしですよ。夏目先生、イケメンでよかったですね」 内海麻子は正直な人だった。 何事にも物怖じせずにずけずけと物を言う。 年下のはずなのに、なんだかこちらが気後れしてしまう。 「ありがとう」 「褒めてないですよ」 「そう?」 にこりと笑うと、内海先生はすこしバカにしたような視線をこちらに投げた。 「今日も小泉先生と揉めてましたね」 小泉先生。 ベテランの救急救命医だ。 無理に患者さんを受け入れようとして注意されることは少なくない。 「小泉先生には感謝してるよ」 「え」 「僕、よく周りが見えなくなるから」 僕が人を救いたがるのは、自分のためだ。 だからこそ、盲目になる。 できないことをできないというのも責任。 その通りだと思う。
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