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僕は笑顔で現在の状態や今後の説明を口にする。
そこにいるのは高橋さんであって高橋さんではないのだと、自分に言い聞かせた。
「明日中には、一般病棟の方に移ってもらうことになると思います」
「はい、わかりました」
長い間、ずっと会いたいと思っていた。
同時に、会いたくないとも思っていた高橋さんが、ここに、僕の目の前にいる。
何だか、不思議な気分だった。
高橋さんに幸せになっていてほしいとあれほど願ったはずなのに、加護将晴が須藤さんの恋人だと知って安心している僕は、ひどい人間だろうか。
そうかもしれないが、それでも、よかった。
高橋さんには恋人がいるかもしれない。
もしかしたら、もう結婚して子供がいる可能性だって考えられる。
彼女なら幸せなら、それでいい。
それでも、それらのすべてが、僕の知らない、見えないところで起こっていてほしいと、そう願った。
高橋さんがちらりと窓の外に目をやる。
そこで初めて、いつもは閉じているはずのレースのカーテンが開かれていることに気付いた。
そこから、丸い月がよく見えた。
「月が、綺麗ですね」
彼女は穏やかな表情でそう言った。
何気ない一言のはずなのに、心が、震えた。
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