第十章

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徹。 一徹。 一徹とは、高校の同級生だった。 といっても接点と呼んでいいようなものはほとんど無に等しい。 そいつについて持っている最初の記憶は、定食屋で高橋さんの話をしていたことだった。 九年前のあの日以来、僕と高橋さんとの関わりを知る人間として、僕は一徹のことを非常に警戒していた。 あの日、僕と高橋さんはほとんど何の相談もしなかった。 時間がなかったことが最大の理由だが、そんなものをせずとも大丈夫だという確信があった。 病室で警察に事情聴取をされた際に、高橋さんが僕の存在を知っていると答えたことを聞いて、さすがだと思った。 それさえ否定しなければ、仮に一の口から警察に、高橋さんが文化祭に来ていた事実が伝わったとしても、何とでも言い訳できる。 しかし、それでも無関係でいるに越したことはない。 警察が一に高橋さんの写真を見せないことを、一が高橋さんの存在なんて忘れてくれていることを、僕は願っていた。 僕の願いが届いたのか、事件以降僕らは互いの関係を疑われることもなく月日を重ねた。 そのまま、高校を卒業できるものだと思っていた。
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