第十章

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一徹が僕に電話をかけてきたのは、次の夜のことだった。 僕の電話番号を知っている人間などほとんどいないものだから少し驚いたが、電話の相手が一だとわかって納得する。 あの時、僕の携帯電話から一に電話をかけたのだ。 当然向こうにも履歴が残っているはずである。 『もしもし。夏目?』 「うん」 『今、大丈夫か』 「大丈夫だよ」 『昨日は、ありがとう』 「いや」 彼女、大丈夫だった?と聞こうとして、僕は口を噤んだ。 何となく、触れてはいけないことのような気がした。 『真帆のこと』と向こうからその話を切り出した。 彼女の名前が真帆だということも昨日知ったが、依然として苗字はわからないままだった。 『誰にも言わないでくれないか』 誰にもというのは、一体どの範囲を示しているのだろうと考えた。 もちろん不特定多数の人間に向けて言いふらすようなことをするはずはないし、第一友達のいない僕にそんな術はない。 学校とか、警察ということだろうか。 いや、多分違う。 一がわざわざ僕に電話をかけて口止めしたい相手は、彼女の家族ではないかと思った。
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