第十章

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「夏目に、救われたって、会えてよかったって、そう言ってた」 心の中に、不思議な感情が広がった。 一瞬泣きそうになったのを堪えた。 感情を抑えて「そっか」と、素っ気ない風を装う。 「ごめんな」と何に対するものなのかよくわからない謝罪をした三池は「じゃあ」と言って去った。 三池のごめんは、おそらく僕を疑ったことへの謝罪だ。 けれど、それは謝るようなことではないのだ。 疑われるには、それだけの理由がある。 「ふぅ」と一つ息を吐いた僕は、突如として無性に高橋さんに会いたくなった。 すでに一般病棟へ移動しているというのに、僕は深夜の病院の廊下を歩いて彼女の病室へと向かった。 病室へ入ってカーテンを開けると、彼女の寝顔がそこにあった。 今日は、すやすやと寝ているようだ。 「高橋さん」 僕は、意識のない彼女に向かって話しかけた。 「僕ね、この間、捨て猫を見つけたんだ」 囁くようなその言葉に、彼女が気付く気配はない。 「でも、助けてあげられなかった」 今の生活で、僕に動物を飼うことはできない。 救いたいものを救えるだけの力が欲しかったのに、あの頃と変わらない結果がそこにある。
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