第十章

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我慢できなかった。 君の笑う顔。 泣いている顔。 困っている顔。 怒っている顔。 喜んでいる顔。 その全てを、僕に向けてほしいと思う自分がいる。 僕の知らないところで、君が素敵な人と出逢って、結婚して。 そんな想像をすると。 誰かに向かって幸せそうに笑い掛ける君を想像すると、胸が張り裂けそうになる。 君の幸せだけを願えない僕に、君を愛する資格はないだろうか。 そうかもしれない。 それでも、ただ、好きだった。 「ん……」 小さく、君の声がする。 それだけで、大きく心臓が跳ねた。 ダメだ。 これ以上、ここにはいられない。 「ばいばい」 これで、最後だ。 彼女に背を向けて歩き出そうとした。 その瞬間。
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