第十章

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「なつめ、くん……」 どくん。 自分の心臓の音がはっきりと聞こえた。 振りかえった先にいる君は、まだ、しっかりとその瞼を閉じたままで。 「ごめんね」 確かに、彼女の声だった。 可愛らしいその声は、あの頃と、何一つ変わっていない。 「夏目君、ごめんね」 そっと近寄ると、君の頬を、すっと涙が伝った。 綺麗な、涙だった。 「愛してるよ。この、世界中の誰よりも」 そうして、僕は彼女にそっと口づけをする。 一瞬、触れるか触れないかのそれは、僕の、初めてのキスだった。 「さようなら」 もう、振り返らない。 病室を出て、僕はそのまま歩き出した。 ごめんね。 たくさんのものを与えてもらったのに、何も返せなくて、ごめん。 僕が君を幸せにしてあげたかったけど、それは、叶わない。 どうか、君が、素敵な誰かと幸せな日々を過ごせますように――
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