第十章

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「少ないけど、一応ね」 「びっくりです」 「そこまで言う?」 「だって、夏目先生病院に住んでるじゃないですか」 住んでるって……。 「家、あります?」 「あります」 布団以外何もないが、一応あることはある。 嘘じゃない。 「へえ」と興味なさげに呟いた内海先生は「じゃあ」と言って、その場を後にした。 僕はその後ろ姿から視線を切って救急外来の出入り口から病院の外へと出る。 翔太に連絡を入れようと思ってカバンから携帯電話を取り出したが、それの電源を入れるよりも早く進路の先にある人の気配に気が付いた僕は、手を止めて視線を上げた。 「よお、久しぶり」 その人物には見覚えがあった。 「お久しぶりです、羽生刑事」 羽生善人。 九年前、最初に僕の病室へと訪れた刑事だった。 「いい記憶力だ」 羽生刑事は満足げに笑った。
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