第十章

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「時間はあるか」 有無を言わせぬ口調だった。 単なる世間話をしに来たのではないことは、その表情からも明らかだった。 「はい」と答えた僕は、「一通、メールを送っても?」と続けた。 「先約があったか。悪いな」 「いえ」 僕は携帯電話の電源を入れて、今晩の約束の断りを入れるメールを短く打った。 「飯でもどうだ?奢るぜ」 「ここでは済まない話ですか」 「それはお前次第だな」 一拍置いて、「ご一緒させていただきます」と答えた。 不思議と焦りはなかった。 いつか、こんな日が来るような気がしていた。 その会話を、幾度イメージしたか知れない。 大丈夫、と心の中で自らを鼓舞した。 「よし」と言った羽生刑事は、そのまま踵を返し駐車場へと向かって歩いた。 どうやら車で来ているようだ。 運転席に乗り込んだ羽生刑事に続いて助手席のドアを開く。 「失礼します」 シートベルトをきちんと締める様を見ながら、やはり警察官なんだななんて感じる僕は、どこか感覚がずれているのかもしれない。 羽生刑事は何も言わずに車を発進させた。 車は夜の街を駆けてゆく。
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