第十章

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「先月、墓参りに行ったか」 羽生刑事は突然そんなことを口にした。 僕は焦りを見せぬように、「はい」と答えた。 「ひまわりを持って?」 「そうです」 どうして、という問いはこの際意味をなさないだろう。 僕は静かに事態を悟った。 「毎年?」 「はい」 「いつから?」 「八年前です」 「その前は?」 「その前、というと?」 「九年前のあの日も、ひまわりは供えられていた。それは、お前じゃないな」 僕は小さく深呼吸を挟んでから、「違います」と答えた。 「邦浩か?」 「さあ。僕は知りません」 もう少し突っ込んでくるかと思ったが、羽生刑事は「そうか」と言って再び黙った。 程なくして、カバンの中で携帯電話が震えた。 翔太か。
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