第十章

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「たまにいいものを食べたりしないのか。随分稼いでるだろう」 ひまわりのことを知っているなら、おそらく僕の収入の行き先についても知っているだろう。 それを踏まえての問いということだろうか。 「食にはあまり興味がないので」 「興味がないのは食だけか?」と尋ねた羽生刑事は自身のカバンから何かを取り出してテーブルの上に置いた。 通帳と印鑑だった。 「お前にと、預かってきた」 誰からというのは聞くまでもないだろう。 あの人がこのお金を使わないであろうことはなんとなくわかっていた。 それでも送り続けたのは、僕の自己満足だ。 「いりません。どこかに寄付でもしてください」 「寄付したいなら自分でしろ。お前の稼いだ金だろう」 羽生刑事はさも当然というようにそう言い捨てた。 それでも僕が通帳に手を伸ばそうとしないのを見て、言葉を続ける。 「月曜日、午前五時から八時半までカフェでバイトしてから一限から五限の授業に出席、十九時から二十一時まで家庭教師をしたのち、二十二時から翌朝六時までダーツバーで働いて、仮眠を取ってから火曜日の一限から四限に出席、十七時半から」 「よく調べましたね」 単純に驚いた。 当時の予定なんて自分でもよく覚えていない。 「別に調べたわけじゃねえよ。渡辺が覚えてた」 「翔太が?」
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