第十章

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最初に渡辺翔太という名前を知ったのは、高校一年生の秋のことだった。 模試の英語で全国一位をとったのが彼だった。 その後、大きな模試を受けるたびに英語の上位者に名前があることに気付いた。 いつも決まって一番だったわけではないが、結局一度も勝てずじまいだったのをよく覚えている。 大学受験の合格発表を終えて、僕はすぐさまインターネットでその名前を検索した。 正確に言えば検索した名前は翔太のものだけではなかったが、最も印象に残ったのが彼だった。 そいつはすぐに見つかった。 SNSに投稿されている写真を見て、僕は彼に惹かれた。 単純に容姿が整っているというだけではない。 それまで自分が出会ってきた人間とは求心力の桁が違うと思った。 そこにあった写真は、どれも人に囲まれたそれだった。 女子が多いからフランス語を選択するつもりだという彼のコメントを見て、僕は語学の第一志望をフランス語にした。 同じクラスになれる確率はそれほど高いものではなかったが、仮にそうなることができたならば話しかけてみようと思った。 何故か。 当時、高橋さんと父を失った僕の生活は、まさに無だった。 明日この世から自分の存在が消えても、誰にも気付かれないのではないかと本気で思っていた。
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