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慣れない『俺』という一人称と、それまでの僕からは考えられないような砕けたキャラクターは、僕に一定の安息を与えるとともに、僕の根底にあるはずの何かを奪い取った。
いや、隠したといった方が正しかったかもしれない。
とにかく、時が経つにつれ、メッキが剥がれていったことだけは確かだった。
スキー旅行は単なるきっかけだ。
もっと前から、僕はギリギリのところで彼らと接していた。
一人になりたいという思いと、それを否定する思いが自分の中に混在する。
結局僕は、人と関わって生きていくことに向いていなかった。
「翔太は、僕のこと、何て?」
「いいやつだって。憧れだったとさ」
その言葉は、僕の心を痛めた。
憧れていたのは僕の方だ。
あらゆる他者を惹きつける翔太の魅力にも、確固たる自身を確立している拓実の自信にも、いつだって憧れていた。
いつか、自分が彼らと同じ場所に立っているべき人間ではないということがバレてしまうのではないかと、常にヒヤヒヤしていた。
僕はあの二人から離れたことを後悔していない。
あれは、虚構の僕の限界だった。
「そうですか」と僕は誰にともなく呟いた。
「これ、渡辺から」と羽生刑事はさらに何かを取り出して通帳の横に並べた。
一枚の写真だ。
僕はそれを手に取る。
写っていたのは、久保さんだった。
「これ……」
ウエディングドレス姿の久保さんは、写真の中で幸せそうに微笑んでいた。
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