第十章

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「お前はそれを知っていた。それでも行ったのは、当然問題に決着をつけるためだ」 「決着?」 「久保を口説き落とそうってのは、すごい発想だな色男」 「何の話ですか」 「きっかけの事故は、本当に事故か?」 膝の上で握った拳の爪が、手のひらに食い込む。 黙れよ。 頼むから。 「僕が突き落としたとでも?」 「真実はお前しか知らない」と羽生刑事は不敵に笑った。 「してませんよ、そんなこと」 僕は静かに答えた。 喉がからからに乾いていた。 「スキー旅行をきっかけにお前は渡辺、柳瀬と決別することになるが、そもそもお前がそれを決意したのは一徹の死亡時だ」 「さっきから、一体何の話をしているんですか」 「唐沢輝が、自分が一徹を殺したと言っている」 「なっ」 そんな馬鹿な。 「さすがにこれは驚きか?」 「そんな馬鹿なこと、あるわけないでしょう」 「どうして?殺したのは、自分だから?」 「馬鹿馬鹿しい。いい加減怒りますよ」 羽生刑事は、また小さく笑って、「お前は何もしていない」と口にした。
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